バブル崩壊の後、日本の財政は悪化の一途をたどり、2011年には国中央を合わせた債務GDP比率は200%を超えている。そして現在、震災直後にもかかわらず増税が既定路線となりつつある。増税のうたい文句は「将来の世代につけを残さないために」である。しかしながらこのレトリックには大きな嘘がある。そのからくりを見てみよう。
まず国債の解消には2つの方法がある。基本路線は増税により財政バランスを黒字に持っていくこと。もうひとつは一部のエコノミストが提唱するリフレーション=軽度のインフレーションである。リフレーションは現在のデフレを打ち消し、経済を活性化するのが主眼であるが、同時に国債の実際的価値を減じてくれるので政府は債務削減もできる。この方法は増税のような直接的な痛みを伴わない等のメリットはあるが、インフレーションは市場の機能を低下させる、投機を誘発する、ハイパーインフレーションになれば経済麻痺を引き起こす可能性があるなどのリスクも多々ある。当然のことながら通貨の番人の日銀が最も嫌う策である。ここまでは一般常識的解説であるが、この2つのオプションには実は世代間の所得の移転という側面を持っていることを見逃してはならない。
総務省の「家計調査」によれば平成22年度の2人以上の世帯において世代ごとの貯蓄額は次のようになっている。
単位:万円/世帯
平均 30歳未満 30~39歳 40~49歳 50~59歳 60歳以上
1244 274 624 1082 1585 2173
当然のことながら老人は若者の10倍近い資産を持っている。
リフレーションは日本を支配する老人層にとって不都合である。国債だけでなく、自分達が所有する現金・預金などの金融資産が目減りするのだ。例えば、年に8%のインフレを起こしたとしよう。その場合単純計算だと、現金は9年で半分の価値になることになる。更に時間の経過とともに目減りは進行する。他方現在のデフレ(1%)は約1割の価値の増加ということになる。インフレが始まるとそれに伴って金利も上昇するが、普通預金がインフレ率を上回ることはない。もうすぐ年金生活に入ろうとする年齢層にはこれはとても不安なことである。年金制度も破たんする可能性も高い現状で、老後の快適な生活を守るには自分の金しかない。他方、増税というのはどういうことか、消費税が20%まで高くなった場合でも、現在の金融資産の購買力は20%減ることになるが80%の購買力は担保されることになる。デフレと合わされば、購買力は10%程度減じるにとどまる。これは老人に都合がよいわけだ。他方、これを若者の視点で見るとどうであろうか?増税は若者の生涯に渡って課税されることになる。リフレーションの場合はどうであろう。少なくとも所得はインフレ率に応じて増加すると予想される。他方、若者の金融資産は少額である。したがって資産の目減りが将来の経済活動を影響することはない。
いま議論されている「社会保障と税制の一体改革」というのは実は「これからの老後を保障するための自己中改革」ではないかと思っている。累積債務も年金破たんも若者に責任はない。しかし、デフレを続け、増税により財政バランスを達成し年金制度を守っていくことは将来の世代を老人の奴隷化にすることにならないか。若い世代はもっともっと政治に関心を持たねばならない。
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