2011年9月20日火曜日

スローライフの経済成長論

今回の震災の後、ネットででは、多くの人が、これまでの多消費型の経済からの脱却を訴えている。この夏の節電も別に15%程度、電気を使うのを控えても別に生活に困らなかったという向きもあるであろう。無駄な消費をしなければ、エネルギー消費も少なくて済む。ならば原発を止めてもいいだろうという論理が、反原発、スローライフ派の人たちの主張だ。しかし、江戸時代の「倹約令」のような節約を政府が政策として打ち出したりすることはない。これ以上景気が冷えると、ますます、失業者は増え、税収も落ち込むのを危惧するからである。震災の後、花見とかコンサートを自粛する動きが出た時も、景気の後退が復興を妨げるという意見が結構あった。確かに皆で節約するとGDPも減ってしまう。

このジレンマを解くカギは、これからの日本の行く末を考えるうえで重要である。経済は単純化したほうが分かりやすい。
ある南海の孤島の人口10人だけの経済を想像してほしい。そのうちの5人は農業で食料を生産している。もちろん食料は10人が食べてハッピーな量だけしか生産していないはずだ。なので需要と供給はぴたりと合っている。しかし、ある時この村の知恵者が島の経済を研究したところ、この島の人たちはメタボでそのために成人病が多く発生しているということが分かった。更には、生産した食べ物も管理が悪く、多くがネズミに食べられたり、腐ったりして生産物の4割が無駄になっていることが分かった。村議会ははカロリー消費20%低減のメタボ撲滅作戦、20%水準への無駄低減を政策として打ち出した。さて困ったのは農民である。この政策が実現すれば、生産はこれまので60%で足りることが明らかだ。一部の農民はこの新政策は経済を疲弊させるといって反対運動を計画し始めた。

ここまでは日本の原子力村と農民は同じ精神構造であることはお分かりであろう。自分の狭い利益に目がくらむとそういうことになる。ところがこの島の人たちはもう少し賢かった。農民の指導者が消費が減ることを歓迎しようと提案したのだ。彼はこういった。これまで人口の半分が食べ物を提供するのに早朝から日没まで働いていた。生産する必要量が減るのだから、まずは皆、働く時間を減らして日暮れ2時間前に仕事をやめることにしよう。これで先ずは2割の減少を雇用を減らさずして達成することができた。しかしながら、農民の所得は当然ながら2割減ることとなった。農民の反発はあったが、彼は農民たちにこれまで無駄な労働をしてきたこと、余った時間は本を読んだり、家族の世話をすればよいと説得したのだった。

早く帰宅して時間のできた農民の中にはその時間で知恵者のところへ行って、勉強する者もあらわれた。そこで一人の農民はメタボについて勉強をし、ダイエット教室を開くことにした。その結果は島人の健康は大幅に改善し、病気で仕事や勉強を休むものが激減した。平均寿命も延びて長期的には労働力も増える好結果となった。

次にはもう一人の農民が新しい蔵をたてて食物管理業に乗りだした。この蔵は厳重に分厚い壁で作られているので、ネズミの侵入を防ぎ、温度を一定に保つことができ、無駄の削減をほぼ0まで減らすことができることが分かった。この農民の倉庫業への転出で農民は3人となった。計算の得意な方は農民は昔通りに働いたら、2.5人しか必要がないことが終わりのはずである。さてどうするか、3人の所得を落として雇用を守るのかまた判断の分かれ目だ。単純な雇用確保は長い不況と新興国の追い上げで、実質賃金の切り下げで対応してきた日本と同じ道である。しかしここでも島民は違う道を歩むこととした。村の知恵者の助言で、一人は食料生産をやめて、薬草栽培に乗り出した。島の健康ブームもありこれは大きな所得を生み出すはずである。残った農民2人も知恵者のところに行き、水牛の導入による耕作効率の向上を目指すことを決めた。
これにより2人でも生産が達成できる。2人は将来を見越して、消費がさらに減っても所得が下がらないように、より収量の高い品種の導入を研究している。これが達成できれば、最後は農民一人で島全体の食料を賄うことができるはずである。

節約で島の経済は縮小したであろうか?もちろん答えはNOである。生産性の向上と新しいサービス業への転出で高い収入を得る職種ができたことにより所得は向上する。村人は以前にはなかった豊かなスローライフを満喫している。もちろん知恵者のところには助言のお礼にいつも贈り物が送られてきているはずだ。陳腐な経済用語でいえば、「生産性の向上」と「高付加価値産業の創出」が鍵ということになる。あともう一つ考えるべきことは雇用を守ることは重要であるが、個々の産業で守ることは全体の利益にならない、ましてや一企業の雇用を無理やり守ることは社会の生産性を停滞させることになりかねない。今の日本では製造業は厳しい状態におかれている。若者の失業率も高い。その一方で看護婦、介護士とかは不足している。児童の保育所も足らない。人手は一方で不足し、一方で余っている。

スローライフの普及と経済の成長は両立するか。上記の島の例を考えていただければYesといえるかもと思っていただければ幸いだ。だたし、それには労働市場の正しい意味での流動化が必要だ。多くの人が単純労働者ではなく、高付加価値を生むプロフェッショナルになる必要がある。新しい産業を興すための支援も必要である。新しい雇用を生むには規制緩和も大事だし、教育制度も変える必要があるであろう。ひいていえば、社会全体としての知恵を出す仕組みの構築が重要となる。まずはこの島の例のように遠い将来を見越した知恵者が必要なのかもしれない。この島のように皆が前を向くのは難しいですか?皆が後ろ向きで、今の仕事にしがみついていて経済が伸びないとこぼしていて経済が伸びるわけはない、とは思いませんか?

唐突ですが次回にはこの島の国債(島債?)問題について考えてみたい。

0 件のコメント:

コメントを投稿