下町ロケット
下町ロケットはご存じ直木賞小説である。どんな結末が待っているかも、大体想像がつく。人物設定も受けそうな設定、悪役と悪っぽいが実は最後は味方とか魅力あふれる人物がちりばめられている。とはいえ、案の定、比較的単細胞な私は最後あたりは滂沱の涙ながら読んだ。主人公の直面する問題は経営に携わる者ならば、うなずきたくなるものばかり、資金繰りに、従業員とのコミュニケーション、できているようでできていない。大企業の官僚的な対応、横柄さ。それを乗り越えねば商売もない。そうそう、と思わずうなずくことばかり。
零細・下請けのイメージ
日本で中小企業というと大企業の下請け、つまりは縁の下の力持ちというイメージが定着している。よってそこにはどこか
わびしさが漂う。しかし、エコノミストのスティグリッツもいうように、新しい雇用を作り出すのは中小企業なのである。大企業はリストラをし、下請けにコストカットを要求するだけなのだ。それは先が見えているからである。新しい企業は最初は当然中小企業、だから小回りが利く、つまらない管理はしない。要は無駄が少ない。コンプライアンスなぞ知ったことではない。それが新しい環境に適応する力となるのだ!
起業率・廃業率
ところが日本では廃業率が企業率を上回るという事態が80年代後半から続いている(中小企業白書2010)。また、日本の企業率は2001-2004年は3.5%、2004-2006年はもちかえして5.1%となったが、廃業率はその間、6.1%、6.2%と確実に日本の企業ベースは縮小しているのである。一方米国、フランスなどを見るとどこも起業率は10%を超えている。つまり、産業の新陳代謝がよいのである。
もとは皆、中小企業だった?
今、市場価値世界一位の企業であるアップルも始めたときは零細企業。2人の若者が始めた企業である。マクロソフトも、グーグルも一緒である。アップルとマイクロソフトの創業者はどちらも大学中退者である。いわば、既存の枠にとらわれない無手勝流の若者が世界を席巻したといっていい。日本にもかつてはソニーの森田、本田の本田宗一郎というゼロから世界企業を作り上げた人たちがいた。しかしそういった若い企業が輩出しているという話はきかない。楽天も、ソフトバンクも素晴らしいと思うが考えてみればドメドメ企業である。あえて言えばユニクロ?しかし、イノベーションで世界に出ているわけではない。もともと日本は財閥系の大手ががちっと支配するお上しはいのこうぞうである。そのルーツをたどれば政商だったり、国策会社だったりする。彼らの経営が官僚的で、創造性に欠けるのはそのルーツの性であろうか?そうした企業がいまだに経団連とかで業界を牛耳っている限り、中小企業が出ていく余地はなかなかうまれない。
韓国の躍進
撮りためていたNスペ、昨年10月の「緑色戦争」(2010年11月14日)をみた。番組では韓国政府の第二のサムスン計画として環境技術に政府が真剣に取り組む姿と日本の大阪の中小企業が中国進出で苦渋の思いをしている姿を対比している。中国のしたたかさはさておき、韓国企業が政府の支援で受注を獲得、方や革新的な技術デモってしても越えられない価格の壁にぶつかり、現地委託生産の選択をした時のインタビューの社長の不安にみちた虚空をさまよう目には憐憫の情さえ感じさせられた。きっと丸裸にされて儲けもなく中国から帰っていくのかと。
新幹線、原子力と重厚長大の輸出を模索する日本に比べて小回りの利く中小企業の海外進出を助ける韓国企業、その戦略性のスタンスの違いに唖然とした。
日本復活のカギ
日本復活のカギは元気な起業家が輩出できる環境を作っていくこと言うことになる。最近、経産省を退官した古賀茂明氏は
その著書「官僚の責任」ではトヨタのような下請けに甘んじていては将来はないとまで言っている。トヨタは下請けから絞り上げることで巨大な利益を出しているが、下請けにはまったく利益が残らないようになっている。利益なしに将来の成長はないともいえる。またトヨタが国内の生産をやめる、あるいはトヨタがコケれば、下請けもこけてしまうことも遠い将来の話ではないかもしれない。
日本にはJETROという経産省の外郭の輸出促進組織がある。現在はあまり知らないが、20年以上前にお付き合いがあったころにはおもにMITIの出先機関として接待とお出迎えに忙しそうな組織であった。独法化できっとよくなったかとはおもうが、あまりに輸出超過が続いたので一時は輸入促進までやっているという本末転倒を起こしていたが、この組織を解体するなり、独立させるなりして、輸出促進を再度見直さないと、早晩日本は韓国、中国に輸出市場をあらかた取られるであろう。今は国を挙げて輸出企業の育成に合理的精神で臨んで勝機をつかむ最後のチャンスかもしれない。